艸句会報:連雀(令和2年9月2日)
連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「空」
高点1句
辞書の背を繕ふ夜更けちちろ鳴く 飯田 誠子
点滴の一滴づつに秋ともし 坪井 信子
秋空へ五七五で書くラブレター 松本ゆうき
露草挿すワイングラスの脚細し 進藤 龍子
新涼や夫に応へて墓碑は「空」 束田 央枝
久に巻くリューズの固し地虫鳴く 向田 紀子
空を飛ぶ夢見て風船葛かな 山本 潔
この鉢が縄張なのね瑠璃蜥蜴 松成 英子
秋の浜後ろ姿の暮れかかる 中島 節子
新涼を運びて山河濡らす雨 矢野くにこ
津波ありき波打ち際の夜光虫 横山 靖子
T シャツの髑髏が走る夏の果 飯田 誠子
まんまるに鳶の切り取る秋の空 岡崎由美子
水痩せし河原に塩からとんぼかな 安住 正子
(清記順)
【一口鑑賞】「辞書の背を繕ふ夜更けちちろ鳴く」誠子さんの句。使い込まれた辞書は背の部分が傷み、やがてバラバラになってしまう。それを秋の夜更けに繕っているのである。学生時代の思い出だろうか。蟋蟀の鳴き声が詩情を生む。句会では、親からもらった歳時記を直しながら大事に使っている人もいた。もっとも、最近は電子辞書やスマートフォンのアプリが普及している。ちなみに筆者はスマホに「合本俳句歳時記 第4版」(角川学芸出版編)と「広辞苑 第7版」(岩波書店)を入れている。スマホをなくしたら大変なことになる。
「久に巻くリューズの固し地虫鳴く」紀子さんの句も秋の夜らしい詠いっぷり。しばらく使っていない腕時計のネジを巻こうとしているが、思いのほかリューズが固くなっており、難渋する様子が目に浮かぶ。窓の外からは「ジージー」と断続的に虫の鳴き声が聞こえる。「地虫」は地中で生活する虫のことを言うが、鳴いているのは螻蛄。鳴き声が巣穴に共鳴して大きく聞こえてくるらしい。
「津波ありき波打ち際の夜光虫」靖子さんの句。「津波ありき」で読み手の脳裏には東日本大震災の津波の映像が思い出される。ふと我に返ると、波打ち際が異様に光っている。「夜光虫」は夏の季語。海洋性のプランクトンで細胞内に発光体があり、夜の波打ち際で青白く光る。岩手県大船渡市や大槌町辺りでの景を詠んだという。津波の犠牲になった人々の霊が夏の海に浮遊しているかのようだ。(潔)
兼題「空」
高点1句
辞書の背を繕ふ夜更けちちろ鳴く 飯田 誠子
点滴の一滴づつに秋ともし 坪井 信子
秋空へ五七五で書くラブレター 松本ゆうき
露草挿すワイングラスの脚細し 進藤 龍子
新涼や夫に応へて墓碑は「空」 束田 央枝
久に巻くリューズの固し地虫鳴く 向田 紀子
空を飛ぶ夢見て風船葛かな 山本 潔
この鉢が縄張なのね瑠璃蜥蜴 松成 英子
秋の浜後ろ姿の暮れかかる 中島 節子
新涼を運びて山河濡らす雨 矢野くにこ
津波ありき波打ち際の夜光虫 横山 靖子
T シャツの髑髏が走る夏の果 飯田 誠子
まんまるに鳶の切り取る秋の空 岡崎由美子
水痩せし河原に塩からとんぼかな 安住 正子
(清記順)
【一口鑑賞】「辞書の背を繕ふ夜更けちちろ鳴く」誠子さんの句。使い込まれた辞書は背の部分が傷み、やがてバラバラになってしまう。それを秋の夜更けに繕っているのである。学生時代の思い出だろうか。蟋蟀の鳴き声が詩情を生む。句会では、親からもらった歳時記を直しながら大事に使っている人もいた。もっとも、最近は電子辞書やスマートフォンのアプリが普及している。ちなみに筆者はスマホに「合本俳句歳時記 第4版」(角川学芸出版編)と「広辞苑 第7版」(岩波書店)を入れている。スマホをなくしたら大変なことになる。
「久に巻くリューズの固し地虫鳴く」紀子さんの句も秋の夜らしい詠いっぷり。しばらく使っていない腕時計のネジを巻こうとしているが、思いのほかリューズが固くなっており、難渋する様子が目に浮かぶ。窓の外からは「ジージー」と断続的に虫の鳴き声が聞こえる。「地虫」は地中で生活する虫のことを言うが、鳴いているのは螻蛄。鳴き声が巣穴に共鳴して大きく聞こえてくるらしい。
「津波ありき波打ち際の夜光虫」靖子さんの句。「津波ありき」で読み手の脳裏には東日本大震災の津波の映像が思い出される。ふと我に返ると、波打ち際が異様に光っている。「夜光虫」は夏の季語。海洋性のプランクトンで細胞内に発光体があり、夜の波打ち際で青白く光る。岩手県大船渡市や大槌町辺りでの景を詠んだという。津波の犠牲になった人々の霊が夏の海に浮遊しているかのようだ。(潔)
- 関連記事
-
- 句会報:若草(令和2年9月13日) (2020/09/13)
- 艸句会報:連雀(令和2年9月2日) (2020/09/05)
- 句会報:東陽(令和2年8月) (2020/08/30)