艸句会報:若草(令和2年10月10日)
若草句会(亀有 ギャラリー・バルコ)
兼題「小鳥来る」
高点1句
蜂蜜のひと匙の糸秋気澄む 針谷 栄子
新大豆越後屋さんの量り売り 新井 紀夫
瀬音つと変りて紅葉且つ散りぬ 安住 正子
心だけ寄り添ふ秋の深まりし 沢渡 梢
糠床にしかと糠足す秋なすび 石田 政江
気にかかる地球の寿命蚯蚓鳴く 新井 洋子
乾電池替へて夜長の深夜便 市原 久義
老酒に酔うて消えたる秋思かな 山本 潔
小鳥来る窓辺離れぬ猫の耳 岡戸 林風
妹背とてこころに垣根やゝ寒し 松本ゆうき
小鳥来る双眼鏡のある茶房 飯田 誠子
窓ガラス四角に磨き小鳥来る 針谷 栄子
(清記順)
【一口鑑賞】「糠床にしかと糠足す秋なすび」政江さんの句。今や糠床のある家は珍しいだろう。子どもの頃、祖母が糠床を大事にしていたのを覚えているが、いつの間にやら糠漬けはスーパーで買うものになっていた。作者は、糠漬けはもちろんのこと、梅漬けや山椒漬けなどを実に小まめに作っている。「秋なすび」は小ぶりになるが、実が引き締まっていて美味しい。茄子漬けは色合いもきれいだ。掲句は「しかと糠足す」に気持ちが込められている。
「乾電池替へて夜長の深夜便」久義さんの句。「深夜便」といえばN H Kの「ラジオ深夜便」であり、乾電池を替えたのは携帯ラジオである。寝るときに枕もとに置いて聴くのが楽しみになっているのだろう。秋の夜長となれば、聴き入ってしまうことも少なくない。この句は「ラジオ」を省略しながら、ラジオという媒体の魅力を余すところなく伝えている。上五の「乾電池替へて」に軽い高揚感がある。
「妹背とてこころに垣根やゝ寒し」ゆうきさんの句。「妹背」は夫婦や妹と兄、姉と弟のこと。この句は、作者自身の感情と読んでもいいし、一般論として読んでもいい。歳を経るにつれて人間は心の中に垣根を作ってしまうものだ、という感慨を詠んだのだろう。「やや寒」は秋が深まる中で感じる寒さ。このほか晩秋に感じる寒さは「秋寒」「そぞろ寒」「うそ寒」「肌寒」など語感によって微妙な違いがあるから面白い。(潔)
兼題「小鳥来る」
高点1句
蜂蜜のひと匙の糸秋気澄む 針谷 栄子
新大豆越後屋さんの量り売り 新井 紀夫
瀬音つと変りて紅葉且つ散りぬ 安住 正子
心だけ寄り添ふ秋の深まりし 沢渡 梢
糠床にしかと糠足す秋なすび 石田 政江
気にかかる地球の寿命蚯蚓鳴く 新井 洋子
乾電池替へて夜長の深夜便 市原 久義
老酒に酔うて消えたる秋思かな 山本 潔
小鳥来る窓辺離れぬ猫の耳 岡戸 林風
妹背とてこころに垣根やゝ寒し 松本ゆうき
小鳥来る双眼鏡のある茶房 飯田 誠子
窓ガラス四角に磨き小鳥来る 針谷 栄子
(清記順)
【一口鑑賞】「糠床にしかと糠足す秋なすび」政江さんの句。今や糠床のある家は珍しいだろう。子どもの頃、祖母が糠床を大事にしていたのを覚えているが、いつの間にやら糠漬けはスーパーで買うものになっていた。作者は、糠漬けはもちろんのこと、梅漬けや山椒漬けなどを実に小まめに作っている。「秋なすび」は小ぶりになるが、実が引き締まっていて美味しい。茄子漬けは色合いもきれいだ。掲句は「しかと糠足す」に気持ちが込められている。
「乾電池替へて夜長の深夜便」久義さんの句。「深夜便」といえばN H Kの「ラジオ深夜便」であり、乾電池を替えたのは携帯ラジオである。寝るときに枕もとに置いて聴くのが楽しみになっているのだろう。秋の夜長となれば、聴き入ってしまうことも少なくない。この句は「ラジオ」を省略しながら、ラジオという媒体の魅力を余すところなく伝えている。上五の「乾電池替へて」に軽い高揚感がある。
「妹背とてこころに垣根やゝ寒し」ゆうきさんの句。「妹背」は夫婦や妹と兄、姉と弟のこと。この句は、作者自身の感情と読んでもいいし、一般論として読んでもいい。歳を経るにつれて人間は心の中に垣根を作ってしまうものだ、という感慨を詠んだのだろう。「やや寒」は秋が深まる中で感じる寒さ。このほか晩秋に感じる寒さは「秋寒」「そぞろ寒」「うそ寒」「肌寒」など語感によって微妙な違いがあるから面白い。(潔)
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