『花暦』ダイジェスト/平成26年6月号
暦日抄 舘岡沙緻
妙成寺・他
生れ月の句碑の誕生能登は初夏
海音も生れし句碑祝ぐ五月かな
青葉潮五重の塔へ風起す
嬉々として入魂の句碑夏日浴ぶ
句碑誕生塔の荒石夏日撥ね
竹の秋入魂の碑は黒御影
石楠の一花はわれか句碑誕生
白藤にむらさき藤に水の音
寺親しければ藤さへ親しかり
こぼれさう白芍薬に寺の風
寺の蛇句碑のぞかむと穴を出る
人声に出でしばかりの蛇洞へ
シャッター音一目散に寺の蛇
走り根に蹉くまいぞ木下闇
名塔を父母とし仰ぐ夏の風
〔Web版特別鑑賞〕石川県羽咋市の妙成寺に主宰の句碑が完成し、入魂式が行われた。その様子は地元紙の北國(ほっこく)新聞(5/12付)にも紹介された。今月の暦日抄は「妙成寺・他」の前書を付けて15句全体が連作になっている。<嬉々として入魂の句碑夏日浴ぶ>。時に、俳句は擬人法を用いて表現する。この句はまさに今、魂が入った句碑を人格化して詠んだ。上五の「嬉々として」と下五の「夏日浴ぶ」が見事に響き合い、生命感に溢れている。このように擬人法をうまく使えば豊かな表現になる。<竹の秋入魂の碑は黒御影>は一見説明的だが、何度も読むうちに御影石に映り込んだ風景までもが目に浮かんでくる。上五に置いた「竹の秋」が効果的だ。<青葉潮五重の塔へ風起す>は写生句。「青葉潮」は5月ごろに太平洋岸を流れる黒潮を漁師たちがそう呼んだことに由来する。今では、新緑のころに勢いよくさし込む潮として幅広く使われている。能登の潮が巻き起こす海風が妙成寺の五重塔へ吹いてくる。<名塔を父母とし仰ぐ夏の風>も同じ海からの風か。中七の「仰ぐ」の後には「句碑」が省略されている。それは作者の分身として永遠に存在していく。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
駅弁の御飯真つ白仏生会(加藤弥子)
ひとり来てぞろぞろと来て春祭(池田まさを)
春の田となりて近江の暮るるなり(野村えつ子)
仏具屋の白檀の香や鳥曇(岡崎由美子)
堰を越す水に音生れ菖蒲の芽(中島節子)
へろへろに疲れて睡る暮春かな(堤 靖子)
太縞の紺ネクタイや五月病(向田紀子)
身にまとふ花冷といふ美しきもの(矢野くにこ)
汐引きし運河の春の昏さかな(森永則子)
棚雲に日の宿りゐる彼岸かな(中村松歩)
アネモネや眠れぬときはそのままに(岡田須賀子)
鶯の次の声待つひとりかな(工藤綾子)
目刺焼く働けるだけ働いて(安住正子)
一人づつ抱きしめられて卒園す(長野克俊)
■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【26年6月の活動予定】
3日(火)さつき句会(白鬚)
5日(木)花暦吟行会(明治神宮御苑)
7日(土)秋冬会(事務所)
9日(月)舘花会(事務所)
10日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
11日(水)連雀句会(事務所)
12日(木)舘花会(事務所)
16日(月)花暦例会・若草合同句会(俳句文学館)
25日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
27日(金)天城句会(俳句文学館)
28日(土)木場句会(江東区産業会館)
妙成寺・他
生れ月の句碑の誕生能登は初夏
海音も生れし句碑祝ぐ五月かな
青葉潮五重の塔へ風起す
嬉々として入魂の句碑夏日浴ぶ
句碑誕生塔の荒石夏日撥ね
竹の秋入魂の碑は黒御影
石楠の一花はわれか句碑誕生
白藤にむらさき藤に水の音
寺親しければ藤さへ親しかり
こぼれさう白芍薬に寺の風
寺の蛇句碑のぞかむと穴を出る
人声に出でしばかりの蛇洞へ
シャッター音一目散に寺の蛇
走り根に蹉くまいぞ木下闇
名塔を父母とし仰ぐ夏の風
〔Web版特別鑑賞〕石川県羽咋市の妙成寺に主宰の句碑が完成し、入魂式が行われた。その様子は地元紙の北國(ほっこく)新聞(5/12付)にも紹介された。今月の暦日抄は「妙成寺・他」の前書を付けて15句全体が連作になっている。<嬉々として入魂の句碑夏日浴ぶ>。時に、俳句は擬人法を用いて表現する。この句はまさに今、魂が入った句碑を人格化して詠んだ。上五の「嬉々として」と下五の「夏日浴ぶ」が見事に響き合い、生命感に溢れている。このように擬人法をうまく使えば豊かな表現になる。<竹の秋入魂の碑は黒御影>は一見説明的だが、何度も読むうちに御影石に映り込んだ風景までもが目に浮かんでくる。上五に置いた「竹の秋」が効果的だ。<青葉潮五重の塔へ風起す>は写生句。「青葉潮」は5月ごろに太平洋岸を流れる黒潮を漁師たちがそう呼んだことに由来する。今では、新緑のころに勢いよくさし込む潮として幅広く使われている。能登の潮が巻き起こす海風が妙成寺の五重塔へ吹いてくる。<名塔を父母とし仰ぐ夏の風>も同じ海からの風か。中七の「仰ぐ」の後には「句碑」が省略されている。それは作者の分身として永遠に存在していく。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
駅弁の御飯真つ白仏生会(加藤弥子)
ひとり来てぞろぞろと来て春祭(池田まさを)
春の田となりて近江の暮るるなり(野村えつ子)
仏具屋の白檀の香や鳥曇(岡崎由美子)
堰を越す水に音生れ菖蒲の芽(中島節子)
へろへろに疲れて睡る暮春かな(堤 靖子)
太縞の紺ネクタイや五月病(向田紀子)
身にまとふ花冷といふ美しきもの(矢野くにこ)
汐引きし運河の春の昏さかな(森永則子)
棚雲に日の宿りゐる彼岸かな(中村松歩)
アネモネや眠れぬときはそのままに(岡田須賀子)
鶯の次の声待つひとりかな(工藤綾子)
目刺焼く働けるだけ働いて(安住正子)
一人づつ抱きしめられて卒園す(長野克俊)
■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【26年6月の活動予定】
3日(火)さつき句会(白鬚)
5日(木)花暦吟行会(明治神宮御苑)
7日(土)秋冬会(事務所)
9日(月)舘花会(事務所)
10日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
11日(水)連雀句会(事務所)
12日(木)舘花会(事務所)
16日(月)花暦例会・若草合同句会(俳句文学館)
25日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
27日(金)天城句会(俳句文学館)
28日(土)木場句会(江東区産業会館)
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