『花暦』ダイジェスト/平成26年8月号
暦日抄 舘岡沙緻
病室の七夕飾り風を欲る
七夕飾り紙のおべべの愛ごいこと
七夕や腕細きはいつよりぞ
見舞客に喪服の人や雨の雷
太宰の桜桃わたしの桜桃恙の身
吉男忌の病院食の巴旦杏
退院は風三樓忌風涼し
加賀なれや鮴の刺身の慎ましく
塩田に人の影なき夕焼波
飛騨越えや十割蕎麦の涼しさよ
隧道を隧道つなぐ青山中
露涼し市に一位の一刀彫
新いもの皮のむらさき背負籠
旅人に朝より老の水打ちて
朝涼や手足の爪をととのへて
〔Web版特別鑑賞〕今月の暦日抄は後半の8句が月刊『俳句』8月号(角川学芸出版)の「作品8句」に「鮴の刺身」のタイトルで掲載されている(順序や一部の句は若干内容が異なる)。<加賀なれや鮴の刺身の慎ましく>。鮴(ごり)はハゼ類の形をした淡水魚の総称。北陸の料理には欠かせない存在で、佃煮や唐揚げ、照り焼き、白味噌仕立ての鮴汁などが名物。刺身はみずみずしく、さっぱりした味わいが特徴という。夏の季語だが、これによく似た鰍(かじか)を鮴として用いることもある。鰍となると秋の季語だから面白い。揚出し句は石川を旅して「鮴の刺身」の慎ましさを感じている。「加賀なれや」は「ここはまさに加賀であることよ」という詠嘆。<露涼し市に一位の一刀彫>。一位一刀彫は飛騨地方で生産される木工品。飛騨を越えて北陸への旅の途中の一句。中七から下五への「イ音」の連続が涼しげなリズムを生んでいる。<塩田に人の影なき夕焼波>は能登半島の塩田と夕焼けに染まる海の景が旅情を誘う。<朝涼や手足の爪をととのへて>は、『俳句』の「作品8句」では冒頭に配した句。夏の朝の涼気を感じ取りながら、手足の爪を整えるという行為にさまざまな思いを込めている。主宰は84歳を過ぎてなお俳句への熱意は衰えていない。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
戸袋の庇小さく梅雨に入る(加藤弥子)
べた凪の能登の入江や青葉照(根本莫生)
青空のまま暮れ憲法記念の日(野村えつ子)
雪形や農ひとすぢの兄在さば(相澤秋生)
子は髪を縛りテストに夜の雷(春川園子)
湯浴み後の裸子明き灯の下に(岡崎由美子)
巻きゆるぶ次の一花の白菖蒲(中島節子)
引越しのダンボール積み更衣(堤 靖子)
梅雨の扉の金属音の重さかな(向田紀子)
学帽の白きカバーや麦の秋(岡戸良一)
茅花流し高床式の穀物庫(森永則子)
チューリップの散りたるあとの茎太し(大野ひろし)
老酒の甕に亀裂や青嵐(山本 潔)
ガラス玉にいのち吹き込む青葉風(吉崎陽子)
花暦集から
卯月波房総半島長々と(市原久義)
飛び火して畑隅に咲くポピーかな(鈴木正子)
雨しとど薔薇を接写のカメラマン(福岡弘子)
内よりは外の涼しさ三日月(山室民子)
宿下駄の音たてぬやう螢の夜(松成英子)
雨あがる山の工房朴一花(横山靖子)
信濃路を走りはしりて走馬燈(鳰川宇多子)
神の池蓮の浮葉の丸さかな(吉田スミ子)
訪ひの声聞かぬ日や百合開く(小泉千代)
朝よりの雨の細しや新茶汲む(田崎悦子)
◇第61回墨田区俳句連盟俳句大会
墨田区長賞
迅雷に眼の光る鬼瓦 工藤綾子
万緑の山高々と空を攻め 〃
読売新聞社賞
雷鳴や一塊の雲奔らせて 高橋郁子
万緑のダム湖を走る風の襞 〃
◇俳句界7月号
山下美典選(秀作)
花の下試食に抓む吉備団子 安住正子
■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【26年8月の活動予定】
2日(土)秋冬会(事務所)
5日(火)さつき句会(事務所)
12日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
13日(水)連雀句会(三鷹)
16日(土)木場句会(江東区産業会館)
18日(月)花暦例会(俳句文学館)
22日(金)天城句会(俳句文学館)
27日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
病室の七夕飾り風を欲る
七夕飾り紙のおべべの愛ごいこと
七夕や腕細きはいつよりぞ
見舞客に喪服の人や雨の雷
太宰の桜桃わたしの桜桃恙の身
吉男忌の病院食の巴旦杏
退院は風三樓忌風涼し
加賀なれや鮴の刺身の慎ましく
塩田に人の影なき夕焼波
飛騨越えや十割蕎麦の涼しさよ
隧道を隧道つなぐ青山中
露涼し市に一位の一刀彫
新いもの皮のむらさき背負籠
旅人に朝より老の水打ちて
朝涼や手足の爪をととのへて
〔Web版特別鑑賞〕今月の暦日抄は後半の8句が月刊『俳句』8月号(角川学芸出版)の「作品8句」に「鮴の刺身」のタイトルで掲載されている(順序や一部の句は若干内容が異なる)。<加賀なれや鮴の刺身の慎ましく>。鮴(ごり)はハゼ類の形をした淡水魚の総称。北陸の料理には欠かせない存在で、佃煮や唐揚げ、照り焼き、白味噌仕立ての鮴汁などが名物。刺身はみずみずしく、さっぱりした味わいが特徴という。夏の季語だが、これによく似た鰍(かじか)を鮴として用いることもある。鰍となると秋の季語だから面白い。揚出し句は石川を旅して「鮴の刺身」の慎ましさを感じている。「加賀なれや」は「ここはまさに加賀であることよ」という詠嘆。<露涼し市に一位の一刀彫>。一位一刀彫は飛騨地方で生産される木工品。飛騨を越えて北陸への旅の途中の一句。中七から下五への「イ音」の連続が涼しげなリズムを生んでいる。<塩田に人の影なき夕焼波>は能登半島の塩田と夕焼けに染まる海の景が旅情を誘う。<朝涼や手足の爪をととのへて>は、『俳句』の「作品8句」では冒頭に配した句。夏の朝の涼気を感じ取りながら、手足の爪を整えるという行為にさまざまな思いを込めている。主宰は84歳を過ぎてなお俳句への熱意は衰えていない。(潔)
舘花集・秋冬集・春夏集抄
戸袋の庇小さく梅雨に入る(加藤弥子)
べた凪の能登の入江や青葉照(根本莫生)
青空のまま暮れ憲法記念の日(野村えつ子)
雪形や農ひとすぢの兄在さば(相澤秋生)
子は髪を縛りテストに夜の雷(春川園子)
湯浴み後の裸子明き灯の下に(岡崎由美子)
巻きゆるぶ次の一花の白菖蒲(中島節子)
引越しのダンボール積み更衣(堤 靖子)
梅雨の扉の金属音の重さかな(向田紀子)
学帽の白きカバーや麦の秋(岡戸良一)
茅花流し高床式の穀物庫(森永則子)
チューリップの散りたるあとの茎太し(大野ひろし)
老酒の甕に亀裂や青嵐(山本 潔)
ガラス玉にいのち吹き込む青葉風(吉崎陽子)
花暦集から
卯月波房総半島長々と(市原久義)
飛び火して畑隅に咲くポピーかな(鈴木正子)
雨しとど薔薇を接写のカメラマン(福岡弘子)
内よりは外の涼しさ三日月(山室民子)
宿下駄の音たてぬやう螢の夜(松成英子)
雨あがる山の工房朴一花(横山靖子)
信濃路を走りはしりて走馬燈(鳰川宇多子)
神の池蓮の浮葉の丸さかな(吉田スミ子)
訪ひの声聞かぬ日や百合開く(小泉千代)
朝よりの雨の細しや新茶汲む(田崎悦子)
◇第61回墨田区俳句連盟俳句大会
墨田区長賞
迅雷に眼の光る鬼瓦 工藤綾子
万緑の山高々と空を攻め 〃
読売新聞社賞
雷鳴や一塊の雲奔らせて 高橋郁子
万緑のダム湖を走る風の襞 〃
◇俳句界7月号
山下美典選(秀作)
花の下試食に抓む吉備団子 安住正子
■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。
会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻
お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
【26年8月の活動予定】
2日(土)秋冬会(事務所)
5日(火)さつき句会(事務所)
12日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
13日(水)連雀句会(三鷹)
16日(土)木場句会(江東区産業会館)
18日(月)花暦例会(俳句文学館)
22日(金)天城句会(俳句文学館)
27日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
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