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『花暦」ダイジェスト/平成26年9月号

暦日抄   舘岡沙緻

朝涼や風三樓忌吉男の忌
七月の二つの忌日老いゆけり
涼しさや老いて父母恋ひ勝りきし
鬼灯や老いのひとり身病み疲れ
筆圧の衰へを秘す遠花火
縁うすきままの月日や花火の夜
星今宵寡婦も鰥夫も返上す
梅雨の身は病む身人の手借りもして
梅雨明けとおもへぬ昏さ物干して
桔梗や九十齢まで生きるかも
臥したきは昭和の家の藺茣蓙かな
広島忌玉子一ケで済む御飯
わが手もて擦るわが手や炎暑来
山車庫を遠嶺囲みに夏の露

 悼 喜多みき子さん
九十齢迎へ涼しく逝かれけり

〔Web版特別鑑賞〕『花暦』は200号の節目を迎えた。巻頭で主宰は「創刊当時の主だった同人の皆様に、お目にかかる機会も減って、私としては寂しい限りですが…」と感慨を述べた上で、「高空に二百三百星祭 沙緻」と詠った。300号への歩みが始まったのである。<朝涼や風三樓忌吉男の忌><七月の二つの忌日老いゆけり>。7月は、主宰を俳句に導いた加畑吉男の命日(1日)と、「俳句は履歴書」を信条とした恩師、岸風三樓の命日(2日)が並んでやってくる。「老いゆけり」に実感がこもる。<九十齢迎へ涼しく逝かれけり>はかつての同人への追悼句。俳句文法に長けて毅然とした方だったそうだ。「涼し」という夏の季語を、ただの季感としてではなく、故人の人柄に重ね合わせて偲んでいる。<筆圧の衰へを秘す遠花火>は、ペンを持つ手に感じた老いに対するささやかな抵抗か。「遠花火」との取り合わせが絶妙だ。<広島忌玉子一ケで済む御飯>。主宰は昭和一桁生まれ。戦時中の食糧難で子供のころに満足な食事ができなかった世代にとって、玉子かけ御飯は今も格別なものに違いない。当時の実体験を語れる人々が少なくなりつつある中、原爆で一瞬にして命を奪われた犠牲者たちへの鎮魂と、あの悲劇を繰り返してはならないとの思い込めて詠んでいる。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
未草空の明るさ水に見て(加藤弥子)
靴工房の女主や広島忌(進藤龍子)
湯気の立つ一椀ありて夏料理(野村えつ子)
黒南風やてらてらてらと撫で佛(相澤秋生)
白薔薇をソーダ硝子の細首に(中島節子)
蓮畳風を平らに逃しをり(向田紀子)
かはせみの水を濁さぬ速さかな(坪井信子)
噴水の力を抜きて暮れにけり(束田央枝)
礼拝堂に続く病廊緑さす(針谷栄子)
下車駅に潮の香のして立夏かな(田中うめ)
四月から高校生と大きな子(新井由次)
紫陽花や女ばかりの縫製所(鶴巻雄風)
涼を呼ぶタイルの土間の白洲邸(長澤充子)
水の郷水に暮れゆく半夏生(吉崎陽子)

花暦集から
瀬戸内を巡るフェリーや海月浮く(福岡弘子)
梅雨明けて道行く人の声かるき(梅津雪江)
大洗波打つ飛沫夏の色(小西共仔)
貴船川桟敷で囲む夏料理(鳰川宇多子)
休日の一汁一菜梅雨じめり(山室民子)
大粒のさくらんぼうや誕生日(鈴木正子)
オフィス街の回転ドアや新樹光(市原久義)
白玉のもう冷えた頃軒に風(松成英子)
奥入瀬の水音近し青胡桃(横山靖子)
店たたむ老舗にのこる青葡萄(吉田スミ子)
香水の残り香誰ぞエレベーター(桑原さか枝)
木漏れ日の光をはねて作り滝(長谷川とみ)
顔に似ずきつい香水好みをり(江澤晶子)
サングラスはづせば友の顔となり(武田サカヱ)
針傷の指をかばひて髪洗ふ(曽根菊江)

◇俳句界(8月号)
 大串章選
おぼろ夜や茶房明治のランプ吊り 安住正子
 保坂リエ選
死ぬるなど思ひもよらぬ花の下   〃
 大串章選
青春の花下に肩組む寮歌かな   吉崎陽子
 角川春樹選
後戻り出来ぬ齢や昭和の日     〃
 田中陽選
自動ドア花片舞ひ込む楽器店    〃

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【26年9月の活動予定】
 2日(火)さつき句会(事務所)
 6日(土)秋冬会(事務所)
 8日(月)舘花会(事務所)
 9日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
10日(水)連雀句会(事務所)
11日(木)舘花会(事務所)
13日(土)若草句会(俳句文学館)
15日(月)花暦例会(俳句文学館)
21日(日)木場句会(江東区産業会館)
24日(水)花暦すみだ句会(すみだ産業会館)
26日(金)天城句会(俳句文学館)
28日(日)花暦吟行旅行(金沢)(〜30日)
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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