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『花暦』ダイジェスト 平成27年11月号

暦日抄   舘岡沙緻

一日を身を横たへて薄秋日
白ければ雨際立たす秋薔薇
病衣とはいはず木綿着秋衣
後の彼岸病棟内の車椅子
採血のとどこほりがち夏の果
医院帰りの昼の蓮池遠目にす
わが句碑の寺におくらむ長十郎


梨を剥く母の白髪の増えしこと
群れ咲くといへども個々の曼珠沙華

          『自註・舘岡沙緻集』より

〔Web版特別鑑賞〕今月も「暦日抄」は主宰の日常詠が占める。身を横たえている日の緩やかな秋の日差し。秋雨の中に見る白い薔薇。病人とは見られたくないゆえの衣服へのこだわり。彼岸の頃に行った病院での様子。能登に建立した句碑への思い。病身になっても、常に俳句が心の支えになっている様子がうかがえる。俳句は生きることそのものと思わずにはいられない。
 前置きが長くなったが、今月は「暦日抄」と見開きになっている「自註・舘岡沙緻集より」から一句を取り上げてみたい。<群れ咲くといへども個々の曼珠沙華>。昭和55年の作である。主宰が「春嶺」に所属していた頃で「真間会出句」とある。原句は「曼珠沙華群れ咲く茎の触れ合はず」であったという。曼珠沙華が群れて咲いている様子をじっと見ているうちに、一本一本の茎は触れ合っていないことを発見し、言葉に写し取ったのである。これはこれでひとつの写生句になっている。ただ、写生が効いているかどうか、読み手に「なるほど」と思わせるような表現になっているかどうかと言えば、何かが物足りない。
 その点を主宰の師、岸風三樓は指摘したのだろう。句会でどんなやりとりがあったのかは分からないが、「風三樓先生の御添削あり」と自註している。原句の「群れ咲く茎の触れ合はず」という把握を、俳句の表現として高めたのが「個々の曼珠沙華」である。この措辞によって写生が成功を収めたのは明らかであろう。こうして見ると、俳句には言葉のひらめきと揺るぎない表現が必要だということが分かる。揚出句は、写生の何たるかを教えてくれている。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
若き等と話す敗戦晩夏光(加藤弥子)
今朝秋の雲の形の変はりゆく(進藤龍子)
秋の雷家の中より暮れにけり(束田央枝)
あの空の青を心に敗戦忌(岡戸良一)
露草や乳房重たく牛帰る(矢野くにこ)
晩節や夕日落ちゆく葛の花(斎田文子)
初秋刀魚背筋まつすぐ焼かれけり(長谷川きよ子)
匂ひたつ終の紅薔薇刺粗し(山崎千代子)
茶筅の穂水に緩める白露かな(針谷栄子)
父の忌の蟬の舞ひ込む夜の卓(山本潔)
九月来る下巻の残る文庫本(新井由次)
敗戦日今日魚沼の米を研ぐ(安住正子)
稲架解かれ海一望の千枚田(鶴巻雄風)
ぶら下がる形さまざま瓢棚(高橋郁子)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp
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艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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