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『花暦』ダイジェスト/平成28年3月号

暦日抄   舘岡沙緻

月一度の医師通ひや年迫る
長病めば癌も親しや初御空
万両の朱を尽せりひとりの賀
枕元にティッシュボックス去年今年
野に遊ぶ少女は土に腹這ひて
嶺々晴れて人影もなき冬菜畑
食卓に筆立・カップ年始

〔Web版特別鑑賞〕「俳句鑑賞のたのしさは、作者を悉知しているより、作品を通じてその奥にいる作者を垣間見るところにある」。舘岡沙緻主宰の第一句集『柚』(昭和54年)に序文を寄せた岸風三樓はこう書き出した。その上で、「俳句というものは洵に正直で、こうした一句一句の中にも作者の心象、息づかいまでが読者に伝わって来るので、ついつい作者の見ほとりに連れて行かれるのである」と説いた。
 ブログで「暦日抄」の鑑賞を始めて4年余り。最初は、素人なりの簡単な感想を書き留める程度のつもりだったが、徐々に勉強ノートのようになり、時には誤解や思い込みで好き勝手なことも書いてきた。毎月、「暦日抄」を読むのが楽しかったからだと思う。とはいえ、主宰の心象や息づかいをどれだけ真剣に感じ取ってこられたかといえば、非常に心許ない気がしている。
 <枕元にティッシュボックス去年今年>。ティッシュペーパーはアメリカで誕生し、昭和28年ごろ日本に入ってきた。国内メーカーが箱入りティッシュを発売したのは昭和39年ごろという。今や日用品として定着しているが、当時は画期的だったであろう。そんなティッシュボックスを「去年今年」という季語に果敢に合わせたところがさえている。主宰らしいユーモラスな一句。
 <嶺々晴れて人影もなき冬菜畑>。よく晴れた冬の日、遠くの山々がくっきりと見えている。手前には畑が広がるが、人の姿は見えない。「人影のなき」ではただの描写だが、「人影もなき」とした措辞に孤独感がにじみ出ている。<食卓に筆立・カップ年始>。食卓にあるのはお酒や料理ではない。筆立とカップがいつも通りそこにある。それをただじっと見つめている年の始まり。この句も孤独感を即物的に詠んでいる。『花暦』の18周年記念大会はこのほど恙なく終了した。4月号を最後に休刊となる。(潔)

■『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。
■舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。24年、俳人協会評議員。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


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艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
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