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『花暦』平成24年8月号ダイジェスト

暦日抄     舘岡沙緻

  -金讃(かなさら)神社
参道へ術後の一歩夏落葉
神輿庫裏の杜なる著莪明り
青嵐に耐へて恙の身を樹下に
うすれゆく注射痣あと竹の散る
十一や生きてきしこと誰に告げむ
葉隠れの枇杷の実生きる力欲し
梅雨寒く病ひ忘るるため働く
梅雨の句の多き句稿や机の湿り
思はねばとどかぬ思ひ夏椿
黒レースの裾透きとほる寺の廊
甲高な足組み合はす円座かな
重ければ地に触れ汚れ濃紫陽花
 
  -箱根
旅の身に雨後の傷みの山法師
藤房の終の色とも山育ち
山上の風の露台へみづうみへ


 〔Web版限定鑑賞〕俳句では適切な季語を用いることが重要だ。句会の選で主宰は「季語の斡旋が効いている」あるいは「季語の斡旋が駄目」とおっしゃることがある。季語にはそれ自体が持っている本来の意味(本意)があり、まずはそれを理解する。その上で他の言葉と響き合うかどうかが、句の善し悪しを決める大事な要素になる。これがなかなかうまくいかない。今月の暦日抄は、珍しい季語が巧みに使われている。「十一や生きてきしこと誰に告げむ」は「十一」が夏の季語。カッコウの仲間で「ジュイチー、ジュイチー」と鳴くからこの名が付いた。あるいは「ジヒシン、ジヒシン」と聞こえるので「慈悲心鳥」とも呼ばれる。傘寿を過ぎても衰えることを知らない俳句への情熱。この生き様を誰に告げようか、というのである。不思議な名前の夏鳥との取り合わせの妙!「甲高な足組み合はす円座かな」。これは「円座」が季語。藁などで渦のように円く組んだ夏の敷物。甲の目立つ足を組んでいる様子から何だかおかしみが溢れてくる。「山上の風の露台へみづうみへ」は、「露台(ろだい)」がバルコニー、ベランダのことで夏の季語。山の涼しい風が洋風建築のバルコニーや湖へと吹き抜けていく景が何とも清々しい!「参道へ術後の一歩夏落葉」。何度も癌の手術を乗り越えてきた主宰ならではの一句。「術後の一歩」に全霊が込められている。季語の「夏落葉」もまさに斡旋が効いている。(潔)

舘花集・秋冬集・春夏集抄
夕青葉明日へ持ち越す旅疲れ(加藤弥子)
娘より水かけ祭の誘ひあり(根本莫生)
一枚の棚田守るかに遅桜(野村えつ子)
夫在さば残鶯の声たたへしも(春川園子)
黙といふ優しさもあり茄子の花(岡崎由美子)
鉄砲州の祭り今年も雨となり(堤靖子)
キューピー人形の緑の翼聖五月(新井洋子)
テトラポッド吊り降ろさるる夏の浜(中島節子)
真清水の盛りあがらむとして崩る(坪井信子)
竹皮を脱ぐを見られてしまひけり(高久智恵江)
蚕豆をむきたるあとの夕厨(鈴木えい子)
ガラス張りの調剤薬室青葉冷(針谷栄子)
スカイツリー目掛け路地の子水鉄砲(森永則子)
下敷きにカッターの傷火取虫(山本潔)

花暦集から
父の日や振り子時計の歳月よ(梅林勝江)
梅雨空や造花めぐらすパチンコ店(福岡弘子)
被災地の漁夫や夏場の大漁旗(吉田精一)
氷穴を出づる樹海の青葉風(吉崎陽子)
若竹や青年の士気天を突く(土屋天心)
夏かけて友と連れだつ伊豆の空(梅津雪江)
夏の背広しばらくぶりに新調す(小西共仔)
草笛を持つ身に風の集まりし(松川和子)
一日だけの孔雀サボテン惜しまるる(秋山みね)
七彩のガラス工房走り梅雨(白木正子)
老僧の経の長きや梅雨の入り(鳰川宇多子)
明日は去る街や五月の触れ太鼓(小林聖子)
滑走路夏雲厚き朝なり(山室民子)
坂道の尽きたる所七変化(長谷川とみ)
いままさに若竹といふ青年期(桑原さかえ)
稲光峡田豪雨となりにけり(吉田スミ子)

■ 『花暦』平成10年2月、創刊。主宰・舘岡沙緻。師系・富安風生、岸風三楼。人と自然の内に有季定型・写生第一・個性を詠う。

■ 舘岡沙緻(たておか・さち) 昭和5年5月10日、東京都江東区住吉町生まれ。42年、「春嶺」入門。45年、第9回春嶺賞受賞。63年、春嶺功労者賞受賞。平成4年、「朝」入会。岡本眸に師事。10年、「花暦」創刊主宰。句集:『柚』『遠き橋』『昭和ながかりし』『自註 舘岡沙緻集』。23年7月、第5句集『夏の雲』(角川書店)。


会員募集中
〒130-0022 墨田区江東橋4の21の6の916
花暦社 舘岡沙緻

お問い合わせ先のメールアドレス haiku_hanagoyomi@yahoo.co.jp

【24年8月の活動予定】
 7日(火)さつき句会(白髭)
 8日(水)連雀句会(三鷹)
10日(金)板橋句会(中板橋)
14日(火)花暦幸の会(すみだ産業会館)
18日(土)木場句会(江東区産業会館)
22日(水)すみだ句会(すみだ産業会館)
24日(金)花暦例会・天城合同句会(俳句文学館)
 ※8月吟行会、若草句会はお休みします
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艸俳句会

Author:艸俳句会
艸俳句会のWeb版句会報。『艸』(季刊誌)は2020年1月創刊。
「艸」は「草」の本字で、草冠の原形です。二本の草が並んで生えている様を示しており、草本植物の総称でもあります。俳句を愛する人には親しみやすい響きを持った言葉です。

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