連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「家」
印象句
リハビリを更に励もう初桜 春川 園子
【一口鑑賞】「初桜」はその年の春に初めて咲いた桜の花。気象庁の開花宣言は目安であって、我々は身の周りで最初に目にとまった桜を「初桜」「初花」として詠めばいい。もちろん品種を染井吉野に限る必要もない。リハビリ生活を送っている作者。花に会えた喜びが力となって湧いてきたのだろう。「更に励もう」の措辞に実感がこもる。この句は、深見けん二の〈人はみななにかにはげみ初桜〉に呼応して詠まれたのではないか。思いを新たにする一句。(潔)
春北風や池の波紋の砕けをり 束田 央枝
ドタキャンの娘もかくや落椿 松本ゆうき
歳ごとに花の命を思ひけり 春川 園子
早世の少なき家系紫木蓮 向田 紀子
坂本龍一逝く
竜天に登り哀しきピアノかな 山本 潔
走り根を大きく広げ城桜 飯田 誠子
家族みな一重瞼よ春深し 松成 英子
春雷や夫の鼻唄それつきり 中島 節子
春雷や非戦非核の啓示とも 横山 靖子
恐竜の話延々花筵 坪井 信子
白牡丹風の日の無垢保ちをり 矢野くにこ
(清記順)
船橋句会(船橋市中央公民館)
兼題「装」 ミニ吟行:里見公園
印象句
花屑の道や雲踏む心地して 隣 安
【一口鑑賞】今月の船橋句会は市川市国府台の里見公園を訪ねた。桜の名所として知られるが、16世紀には小田原の北条氏と安房の里見氏が2度に渡り合戦を繰り広げたところ。飛花落花のなかを、この土地の歴史に思いを馳せながら歩いた。掲句は、道一面に広がる花屑の印象を「雲踏む心地」と捉えたところに詩心が感じられる。誰も雲は踏めないが、こう言われると読む方も納得してしまう。同時作の〈こんこんと泉のやうに落花かな〉もこの日の実感。(潔)
人はみな羅漢の顔に花吹雪 並木 幸子
こんこんと泉のやうに落花かな 隣 安
散りながら光る花びら西東忌 山本 潔
バス停にキラキラと舞ふ桜かな 平野 廸彦
青空に花も装ふ里見かな 小杉 邦男
春装の美女を間近に三鬼の忌 岡戸 林風
もう止めよ春野に行こう武装解き 川原 美春
チェーンソー響く家並み萬愚節 沢渡 梢
花散るや杖をつきゐて仁王立ち 三宅のり子
花時は冒険したく家を出る 飯塚 とよ
(清記順)
かつしか句会(亀有学び交流館)
兼題「学」
印象句
花冷えや胸にぬうつと聴診器 片岡このみ
【一口鑑賞】今年の桜は早く、東京では観測史上最速の3月14日に開花が発表された。彼岸の頃には満開となる一方、その後は寒さがぶり返し雨も降ったから「花冷え」を実感した人も多かったのではないか。定期的に病院へ通っている作者。主治医と桜の話などをしているうちに、「ぬうつと」聴診器が伸びてきたのである。この措辞が独特で面白い。「花冷え」との取り合わせで、ひんやりした感じも伝わってくるが、それをストレートに言わないところが良かった。(潔)
「修身」を学びしむかし百千鳥 伊藤 けい
清明や鑿跡残る石切場 五十嵐愛子
原生林残る半島遠霞 小野寺 翠
勤続の娘の祝ひチューリップ 西村 文華
幾何学の得意な子ども蘆の角 山本 潔
切り口の白々とあり大桜 片岡このみ
パレットに佐保姫の色溶かしけり 霜田美智子
芽組むなり子ら学舎の門くぐる 高橋美智子
艶やかさ貫き通し椿落つ 佐治 彰子
勿忘草復興支援の募金箱 笛木千恵子
桜蘂降る学舎の赤レンガ 新井 紀夫
若きらと学ぶスマホや老桜 西川 芳子
学舎は震災遺構春寒し 平川 武子
渡し舟待つ人見遣る雀の子 近藤 文子
あさぼらけさくらはらはらちりぬるを 新井 洋子
(清記順)
東陽句会(江東区産業会館)
兼題 テーマ「小動物」
印象句
虫偏の字を抜けだして蝌蚪生まる 岡戸 林風
【一口鑑賞】「蝌蚪(かと)」はおたまじゃくし。古代の中国では墨が発明される前に漆で竹簡に文字を書いたが、線の頭が大きく線尾は細く、おたまじゃくしの形に似ていたことから「科斗文字」と呼ばれた。掲句は、それを踏まえて詠まれたのだろう。虫偏のない「科斗」だけ見ていると一画一画がおたまじゃくしに見えてくるから面白い。こうした詠み方は昭和の俳人、富安風生も得意だった。風生好きの作者はこの3月、第一句集『彼我』を上梓した。(潔)
伐採のしるしのリボン老桜 中川 照子
渡し場のここぞ雲雀の鳴き処 新井 紀夫
池に映る樹林の影や巣立鳥 岡戸 林風
梅日和男手前の野点かな 中島 節子
朝市の海女のテントや栄螺焼く 安住 正子
失意の子に明日があるさと朝桜 新井 洋子
彼の俳句我の俳句や百千鳥 山本 潔
連山の名前は知らず遠霞 斎田 文子
磯巾着ひとつが開く忘れ潮 岡崎由美子
花冷や紅茶の香る喫茶店 飯田 誠子
春一番ロボット犬の名はさくら 堤 やすこ
老木の凛々しく花を咲かせをり 松本ゆうき
(清記順)
すみだ句会(すみだ産業会館)
兼題:テーマ「菓子」
印象句
春愁や白のみ残る金平糖 岡崎由美子
【一口鑑賞】兼題のテーマ「菓子」で詠まれた一句。桜餅や蕨餅などを詠んだ句が多く投じられるなか、金平糖がまず目を引いた。しかも「白のみ残る」と言われると、なるほどその通りと納得する。俳句では、こうした発見や独自の視点が大事だ。さらにこの句は、春の物憂さを示す「春愁」との取り合わせによって、白い金平糖を眺めている作者の気分が伝わってくる。何でもないことなのに、金平糖を通して読み手もそこはかとない哀しみを覚える一句。(潔)
急く夫と上野浅草初桜 貝塚 光子
古里の山の麓の竹の秋 江澤 晶子
岡戸林風句集『彼我』上梓を祝して
春風や彼我ともに詩を耕さむ 山本 潔
経木の香移る老舗の蓬餅 長澤 充子
手本なき老の生き方翁草 髙橋 郁子
野遊びの子に携帯のベル鳴りぬ 内藤和香子
畦道に蓬摘む老い活き活きと 大浦 弘子
先生の配るクッキー若草野 岡崎由美子
浅春の淡き彩り加賀干菓子 岡戸 林風
嫌なことすぐに忘れて老の春 福岡 弘子
ひと月も続けば難病春の風邪 松本ゆうき
(清記順)
若草句会(俳句文学館)
兼題「列」 席題「桜餅、草餅」
印象句
訪問の白衣の羽織る春セーター 市原 久義
【一口鑑賞】交通事故の後遺症により、介護施設での暮らしを余儀なくされている作者。俳句を詠むことも心の支えの一つになっている。この句は、訪問看護師の姿に着目して詠まれた。早春のまだ寒さが残る時期に重宝するのが薄手の「春セーター」。ピンクやイエロー、ブルーなどの透明感のある色彩が連想される。中七〜下五の「白衣の」「羽織る」「春セーター」の「は」音が心地良いリズムを生んでおり、看護師と作者の笑顔が浮かんでくるようだ。(潔)
寅さんになつた気分や春の土手 片岡このみ
桜餅彼我の一句の話など 山本 潔
晩節へ踏み出す一歩草の餅 飯田 誠子
草の餅食うべ心を野に放つ 新井 洋子
一夜にて替はる陳列春一番 新井 紀夫
復旧の一番列車風光る 市原 久義
駒返る草や渡舟の列につき 安住 正子
岡戸林風『彼我』に
春月を仰ぎ見るごと読みふけり 松本ゆうき
生真面目な俳句の話桜餅 沢渡 梢
春興や水の音きく池ほとり 岡戸 林風
天空に列なす平和鳥帰る 吉﨑 陽子
一坪に収穫の夢耕せり 霜田美智子
三月の光をまとふ梢かな 石田 政江
(清記順)
船橋句会(ギャラリー バルコ)
ミニ吟行:水元公園、しばられ地蔵尊
兼題「軽」
印象句
漕艇の沼にこぎ出す弥生かな 小杉 邦男
【一口鑑賞】今月も船橋句会は東京都葛飾区でミニ吟行を楽しんだ。水元公園は水郷の景観を中心に都内でも最大規模の広さを誇る(一部埼玉県三郷市)。早春の風はまだ冷たく「軽装を少し悔やみてクロッカス 隣安」の句も詠まれるなか、春を探して歩いた。今月半ばからボート教室が始まるようで、この日はその事前準備をしている様子が目についた。それをすかさず詠んだのが掲出句。「弥生」は晩春の季語ではあるが、春の行楽シーズンの始まりを「漕艇の沼にこぎ出す」と捉えたところがきらりと光る。(潔)
願ひ縄結びし地蔵緑立つ 並木 幸子
里芋の鋭き芽伸び生命満つ 飯塚 とよ
足取りに軽重あれど青き踏む 山本 潔
啓蟄や鐘の余韻に身をさらし 岡戸 林風
戯れ合ひのいつか喧嘩に苜蓿 岡崎由美子
葛飾の空の青さや松の花 小杉 邦男
解き縄の樽一杯にしだれ梅 新井 紀夫
軽装を少し悔やみてクロカッス 隣 安
世の憂さを軽くいなして春よ春 新井 洋子
軽口をたたき摘み合ふ蕨かな 川原 美春
枯色の地より湧き出づクロッカス 沢渡 梢
(清記順)
連雀句会(三鷹駅前コミュニティセンター)
兼題「色」
印象句
健やかに老いてホームの雛祭 坪井 信子
【一口鑑賞】「雛祭」は子ども、とりわけ女の子の成長を願う行事だが、幾つになっても雛人形を大切にしている人は多いだろう。雛祭の記憶は懐かしく、忘れがたいものに違いない。雛人形を捨てるのは忍びなく、公共施設などに寄贈する人もいる。この日の句会場でもロビーに立派な雛人形が飾られていた。数年前からケアホームで暮らす作者。掲句は「ホームの雛祭」にやや違和感を覚えながらも、健やかでいることを良しとする気分が伝わってくる。(潔)
知床に命の重み落し角 横山 靖子
残雪や嶺を透かして杉木立 松成 英子
洗濯物干すにも流儀鳥雲に 向田 紀子
色々な吾が出てくる春の夢 松本ゆうき
春寒や電車はビルの灯を縫うて 中島 節子
飴玉を飲みこむやうに二月果つ 山本 潔
白梅やどの道もみな坂がかり 春川 園子
卒寿まで生きて達者よ雑木の芽 坪井 信子
濡れ色の空のかなたに帰る雁 束田 央枝
浅葱色の母の遺愛の春コート 飯田 誠子
薔薇の芽を愛でる歩みとなりにけり 矢野くにこ
(清記順)
かつしか句会(亀有学び交流館)
兼題「喜」
印象句
夫の忌に欠かさぬ草の餅二つ 伊藤 けい
【一口鑑賞】若く柔らかい蓬の葉をゆでて灰汁を抜き、細かく刻んで餅に撞きこんだのが草餅。餡を入れたり、きな粉をまぶしたりして食べる。平安時代の頃から作られていたようだ。深緑で清々しい香味があり、いかにも春らしい。毎年3月10日にご主人の忌日が巡ってくる作者。馴染みの店の草餅を買ってきて仏壇に供えることを忘れない。大好物だったのだろう。あえて「二つ」と言うことで「一緒に食べましょうね」という思いが込められている。(潔)
老いてなほ心は自由凧 髙橋美智子
ほほばりて尚ほほばりて苺狩 五十嵐愛子
枝先に膨らみはじむ桜の芽 三尾 宣子
喜多方の朝のラーメン百千鳥 山本 潔
春ショール巻けば喜ぶイヤリング 笛木千恵子
まんさくの匂へる小江戸佐原かな 小野寺 翠
涅槃西風我家の前に仏具店 新井 洋子
うららかや歓喜地蔵の美男ぶり 佐治 彰子
春耕の土黒々と息を吐く 片岡このみ
雛箱を開けて安堵の顔や顔 近藤 文子
春一番きりんぐらりとゆれにけり 霜田美智子
春寒し坐禅の寺へ喜捨少し 新井 紀夫
料峭や工場跡の広きこと 西村 文華
病床の夫と眺むる春の雪 西川 芳子
(清記順)
東陽句会(江東区産業会館)
兼題 折句ろくふ 例句/老梅のくれなゐの艶風生忌 鈴木貞雄
印象句
寄せ書きは曲りやすくて卒業子 飯田 誠子
【一口鑑賞】この日、私は急用ができて句会へ行けず、欠席投句で済ませた。その日のうちにメールで句会報告が届き、この句は一読して色紙の寄せ書きが目に浮かんできた。間もなく卒業シーズン。先生への寄せ書きや、友達同士で書き合ったりする寄せ書きは学生時代のいい思い出になる。各自、好みの筆記具で好き勝手に言葉を連ねていくが、たいていは曲がってしまう。カラフルで文字も大小さまざま。そんな寄せ書きを的確に把握した一句。(潔)
独り身に神と仏と立雛 向田 紀子
老人と暮らす少年筆の花 山本 潔
春寒や古き秤の針揺るぐ 岡崎由美子
亀鳴くを待ちて米寿となりにけり 安住 正子
恋猫の恋に理屈はなかりけり 松本ゆうき
辻褄の合はぬ話やひなたぼこ 斎田 文子
棚雲や海苔粗朶うねり波うねり 中島 節子
祝ぎくれし甥も老いたり告天子 中川 照子
冴返る戦車の走る国遠く 堤 やすこ
労働に苦あり楽あり蕗の薹 新井 洋子
水温むエイト水切る隅田川 新井 紀夫
路地奥に来る春場所の触れ太鼓 岡戸 林風
(清記順)